
柿本人麻呂
霞立つ 長き春日の暮れにける わづきもしらず むらきもの 心を痛み ぬえこ鳥 うら泣け居れば 玉たすき 懸けのよろしく 遠つ神 我が大君の 行幸の 山越す風の 独り居る 我が衣手に 朝夕に 返らひぬれば 大夫と 思へる我れも 草枕 旅にしあれば 思ひ遣る 便をしらに 網の浦の 海人娘子らが 焼く塩の 思ひぞ焼くる 我が下心


恋歌
現代語訳
霞が立つ春の日が暮れたことにも気づかず、物思いに沈んで胸を痛め、ぬえ鳥のようにひそかに泣いていると、玉のたすきを掛けた遠い神のような我が大君の行幸で山を越えて吹く風が、ひとり旅の私の袖に朝夕返ってくるので、立派な男だと思っていた私も旅の身では心細く、思いを晴らすすべもなく、網の浦の海人の娘たちが焼く塩のように、私の心の奥は思いに焦がれている。
シチュエーション
春霞の立つ長い春の日に物思いに沈む旅人が、大君の行幸に伴う山越えの風に触れて孤独を深め、海人の娘が焼く塩のように胸の内が思いに焦がれていく心情を描いた歌。旅の孤独・大君への思慕・自然描写 が重なった名歌のひとつ。
原文
霞立 長春日乃 晩家流 和豆肝之良受 村肝乃 心乎痛見 奴要子鳥 卜歎居者 珠手次 懸乃宜久 遠神 吾大王乃 行幸能 山越風乃 獨<座> 吾衣手尓 朝夕尓 還比奴礼婆 大夫登 念有我母 草枕 客尓之有者 思遣 鶴寸乎白土 網能浦之 海處女等之 焼塩乃 念曽所焼 吾下情
アイテム ー焼塩ー

日本で最も古い製法は、海藻を使って塩を作る「藻塩焼き」です。海水をかけた海藻を乾かして焼き、その灰を海水に溶かして煮詰めます。灰が含まれるため、灰色や茶色っぽい色をしている日本独特の製法です。現在、伊勢神宮などで神様に供える塩も、この「焼いて固める」伝統的な手法が守られています。こちらから焼き塩体験ができるようです:https://www.moshionokai.jp/moshio/


柿本人麻呂 のゆかりの地
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